<< 角膜のお勉強2 薬店にあるメグスリ >>

角膜のお勉強1

角膜カンファレンスという学会にはじめて参加しました。眼科は、主として眼球を扱う小さな診療科ですが、学会の数は、非常に増えてきていて、今では、眼球の部位別、疾患別に学会が存在するほどです。。角膜、コンタクトレンズ、斜視、緑内障、糖尿病網膜症、白内障、眼炎症、眼感染症、眼循環、眼光学・・・・・・・ とても全部行くのは無理です。
20年以上大学の緑内障外来に所属していた関係で、緑内障関連の学会・勉強会には、積極的に参加してきましたが、開業して、6年も経過すると、偏りのない知識と経験の必要性に迫られ、いままで殆ど縁がなかった学会にも参加するようになったのです。
今回は、角膜カンファレンス30周年という節目の会で、今、何が議論されているかというと、非常に多岐にわたりますが、気になったのは、
1、ドライアイ、2、感染症、3、翼状片でした。

ドライアイに関しては、世界中の医師を巻き込んで新しい診断基準が作成されつつあります。ただ、涙が少ない眼というだけではなく、『様々な要因による涙液及び角結膜上皮の慢性疾患で、不快な症状と視覚障害を伴う』と定義されるそうです。新しい診断基準の要点としては、
まず、自覚症状が診断基準に入ってきたことで、
 1、不快感、 2、視覚障害 このふたつです。
 不快感というのは、『痛み』に関連した症状だが、人によって、表現が様々なので、詳しい問診が重要になります。 視覚障害というのは、涙液膜の安定性の低下にともない視力が低下することで、実用視力計というものが発表されていました。ドライアイ患者においては、開瞼中に徐々に視力が低下している状態が明らかにされていました。
次に涙液の評価。
 これは、シルマーⅠ法が昔から有名で、診断基準としては、これとBUTの2つです。
このシルマーⅠ法は、涙液の基礎分泌に加え、検査用紙が結膜を刺激し、非常に長い Reflex loop を介して涙腺から反射性に分泌される涙液の量を測定している訳です。ただ、最近は、眼球表面に存在する涙液の量を推定する方法がいくつも発表されています。
眼球表面に存在する涙液量を反映しているのが、下眼瞼と角膜の接する所に溜まる涙液で、、この涙液メニスカスの量の評価を定量的にする方法として、
 1、スリットでみた印象
 2、フルオレセインで染色された涙液△の高さをメジャーで測定
 3、メニスコメトリー法を用いた涙液メニスカスの曲率半径測定
 4、DR-1という涙液スペキュラースコープの応用
 5、Tearscope plus を用いて撮影した写真の解析
などがあり、斬新だったのは、
  DR-1で、涙液層最表層の油層が開瞼に伴って角膜上に広がるスピードを計算し、このスピードが角膜上の涙液の量を判定しているという、府立医大の横井先生の発表で、非侵襲の角膜上の涙液量測定装置になりうるらしい。。
 従来簡便な方法として、使われた綿糸法は、信頼性に欠ける理由からか、診断基準から外れた。
 ドライの評価としては、この涙液貯留量を正確に測定することがシルマーテストより重要だそうである。いつも同じ条件で、フルオレセインで染めた涙液三角の写真をとれば、器械がなくてもおおよその定量は可能だと思うのだが・・・

 角膜表面の涙液の不安定性を評価する方法としてのBUTが5秒以下というのも診断基準だが、これは、3回平均で決定される。このBUTを客観的に評価する方法として、TSASというTMSという角膜前面のトポグラフィーを開瞼したまま何枚も測定し、涙液がブレイクしていく状態を評価するシステムもある。
このほかにも、波面収差を解析する機会を応用する方法も紹介されていた。私は、お金がかからない、BUTで十分だと思っています。

最後に、角膜・結膜の障害の程度の判定で、
 角膜は、フルオレセインで染色し、上・中・下と3等分し、それぞれを3点満点で評価し、9点満点で3点以上が基準とないrます。
 結膜は、従来ローズベンガルが染色が有名だが、これはとても痛いので、リサミングリーンで代用してもいいらしい(売っていないが・・・)。鼻側結膜、角膜、耳側結膜をそれぞれ3点満点で評価し、9点満点で3点以上が基準となる。
 ドライアイは、角膜よりも結膜上皮の障害が先行し、程度も強いのが特徴で、この結膜上皮障害の程度を評価する為に、フルオレセイン染色して、普通に観察するだけでは見にくいので、ブルーフリーフィルター(イエローフィルター)を使用したり、リサミングリーンを使ったりして観察を容易にする努力が行われている。ただ、通常の観察でも注意深くやればそれで十分という発表もあった。私も、同感である。

感染症と翼状片については、後日アップします。

ドライアイの診断ステップ(順番が大切)
1、まずフルオレセイン用紙を濡らし、余分の水分を拭き取り、下眼瞼縁に僅かにつける。
(非常に少量!)
2、涙液メニスカスの高さを見る
3、BUT測定(3回)
4、結膜上皮障害(すばやくみないと解らなくなる)
5、角膜上皮障害
6、結膜弛緩、MGD・・・眼疾患をチェック

最後にシルマーⅠ法



その他の気になった発表
 1、喫煙で涙液機能は低下する。シルマー↓、BUT↓、TSAS、結膜上皮、口腔粘膜障害
 2、閉瞼下で、シルマーをしてもいい?


ドライアイに関連する疾患として、結膜弛緩症があります。
これは、どうも、加齢に伴う皮膚の『皺』の結膜版のような気がしています。皮膚も緩むし結膜も緩む。ただ、この緩んだ結膜は、涙液⊿を占拠する。当然眼表面の涙液量はこの部位に殆ど存在するので、涙液貯留量は低下する。また、開瞼に伴って、角膜表面に分布されるのも障害する。ただ、結膜に占拠されて涙液貯留スペースは少ないので、涙液分泌量が保たれている場合、流涙の原因にもなるし、涙液分泌量が少ない場合、ドライアイを悪化させる。また、機械的な作用(瞬目に伴う摩擦)による炎症も引き起こしているらしい(結膜下出血の原因にもなる)。
私の印象では、この結膜弛緩は、非常に多く、その程度の強さに応じて自覚症状が強いという印象が全くないのだが、これに手術をするというのである。
治療としては、
炎症に対しては、ステロイド点眼、NSAID点眼
ドライアイに対しては、ヒアルロン酸点眼、人工涙液点眼
流涙に大しては、NSAID点眼
を試みる。それでも、非常に強い愁訴がある場合、手術の適応と考えるらしい。
この手術方法には、二つの異なるアプローチがあり、有名なのは、横井先生の方法で、要するに、余っている結膜を切除する方法で、細かな修正が加わり、完成の域に達したらしい・・・。もうひとつの方法だが、結膜は、球結膜と瞼結膜があり、この二つは、結膜円蓋部で連続しているが、この部分が浮き上がることで、結膜が緩んできているので、この円蓋部近くの結膜を眼球に固定する(anchoring suture)術式である。全く、アプローチが異なるが、後者の方が、理にかなっているような気がします。

     
by takkenm3 | 2006-02-11 13:24 | 医療情報(角膜)
<< 角膜のお勉強2 薬店にあるメグスリ >>