症例1(多彩な角膜症状)その3

治療が中断し、20日間経過。そして・・・・・
患者さんがやってきたのは、年末の最終診察日。
『4-5日前から左眼の流涙。視力も低下してきた・・・・』

左眼の角膜中央やや下方に大型の樹枝状角膜潰瘍
よく見ると、上皮病変だけでなく、実質も浮腫混濁している。
ヘルペスだったのか・・・・・・・・・・・・・
点眼すべて中止し、ゾビラックス眼軟膏(左×4)処方
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# by takkenm3 | 2006-03-01 21:57 | 症例報告

症例1(多彩な角膜症状)その2

鑑別診断としては、

1、POAG (眼圧が高すぎ、片眼性)
2、PE症候群 (PEがない・・・)
3、Posner Scholossman syndrome (可能性高い。矛盾しない・・・)
4、続発開放隅角緑内障(ブドウ膜炎)(ぶどう膜炎の所見は軽微)
5、 Fuchs heterochomic cyclitis(虹彩異色なし、血管新生なし)
6、角膜内皮疾患(ICE症候群)(角膜内皮異常なし)
7、ステロイド緑内障(ステロイド点眼していない・・・)
以上より、Posner-Schlossman 症候群類似のぶどう膜炎に続発した開放隅角緑内障と診断し、
リンデロンA点左×4、0.5%チモプトール点左×2、トルソプト点 左×3
を開始した。
 某年12月5日、眼圧は下降し、角膜浮腫も徐々に改善し、角膜内皮側にKPが少し見られるようになった。 前房の細胞は(―)のようだが、もう少しステロイド点眼継続することにした。
下の写真は、かなりきれいになっているでしょ。ところがねえ・・・・
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# by takkenm3 | 2006-02-28 19:51 | 症例報告

症例1(多彩な角膜症状)その1

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某年11月30日
70歳前後の男性が、『左眼が2-3日前から見えにくい』との訴えがあり初診。
視力 右0.4(0.5×S+2.00D=C-1.5DAx90) 眼圧 右 15
    左0.01(0.02×S+5D)                左 34 mmHg
(左眼は、もともと視力が悪く(0.1~0.2)程度で、今回更に視力低下している・・・)
右眼は、ごく軽度の白内障と、視神経乳頭には、やや大きめの陥凹と splinter hemorrhgage とNFLD(?)。この時点で、右眼は、正常眼圧緑内障の疑いがあるが、経過観察とした。

左眼は、
 結膜:軽度の毛様充血
 角膜:びまん性の上皮性浮腫
 前房:正常の深さ。細胞・フレア(-)
 隅角:wide open, pigment(+)
 水晶体:軽度の皮質混濁
 眼底:少し見にくいが、特に異常所見なし

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# by takkenm3 | 2006-02-27 18:55 | 症例報告

レーザー虹彩切開術後に発症する水疱性角膜症

原発閉塞隅角緑内障の急性発作は、怖い病気で、発症後すぐに瞳孔ブロックを解除しなければ、失明に至る可能性が高い疾患です。ただ、本当に怖いのは?、この慢性型ともいえる形態で、瞳孔ブロックが原因の周辺虹彩前癒着が徐々に進行し、眼圧上昇、視神経障害、視野欠損へと進むタイプの方でしょうか。これは原発開放隅角緑内障同様に自覚症状に乏しく、手遅れになりやすい。(残念ながら、誤診もしばしばです・・・。)
原発閉塞隅角緑内障には、この二つタイプがあり(中間的なものもあるが・・・)、共に出発は、相対的瞳孔ブロックという機序であり、この段階では、全く視機能に問題ありません(視力・視野・眼圧・視神経所見全て正常)。もし、安全確実に、この瞳孔ブロックを取り除くことができれば、原発閉塞隅角緑内障は、完全に葬り去ることが可能です。
かつて、瞳孔ブロックを取り除く手段は、観血的治療:周辺虹彩切除術しかなく、手術対象は、発作を起こした眼か、かなり進行した原発閉塞隅角緑内障の慢性型だったと思います。レーザーの登場によって、レーザー虹彩切開術が普及するようになり、原発閉塞隅角緑内障が予防可能となりました。これによって、放置すれば緑内障で大きく視機能を損なう可能性のあった多くの眼を救ったことは間違いないと思うのですが、ここにひとつ落とし穴がありました。
レーザー虹彩切開術後、角膜が白く濁ることがあるのです。私も、大学時代、1眼経験しました。何年も前に、レーザー虹彩切開術が行われていた眼で、その後の経過を見ていたのですが、角膜が下方から徐々に白くなってきました。最初いったい何が起こったのかわからなかった、最後には、全面的に白くなり、所謂『水疱性角膜症』になったのです。15年以上前のことで、当時、何故、このような事態になったのか解らなかったのですが、後に、症例が数多く報告され、実は、レーザー虹彩切開術後、角膜内皮細胞が減少し、水疱性角膜症になることがあると解ったのです。その後、我々は、レーザー虹彩切開術の適応に慎重になりました。術前に角膜内皮をスペキュラーマイクロスコープでチェックするようにもなりました。特に、角膜内皮疾患があったり、緑内障発作眼においては、既に角膜内皮が強く障害されている場合があり、レーザー虹彩切開術よりも、内皮に優しい観血的手術の方が選択されるべきとも考えるようになりました。
ただ、このレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症については、いくつかの謎があり、まだ完全には解明されていません。例えば、緑内障発作がすぐに緩解されなくて、内皮の状態が悪く、レーザー虹彩切開術で非常に大きなエネルギーを必要とした場合に、後に水疱性角膜症が発症したのなら容易に理解できるが、全くサイレントな眼で、角膜内皮も問題なかったと思われる眼に、予防的に行われた後にも発症するとの報告が見られるようになりました。これは、大きな謎です。今回、角膜カンファレンスで、この謎に挑むシンポジウムがあったので報告します。謎のポイントは、

1、日本人に多い。欧米では殆ど知られていない。
2、レーザー虹彩切開術から発症まで何年もかかることがある。
3、通常レーザー虹彩切開術は、上方に行うが、水疱性角膜症は下方か起こることがある。
などでしょうか。

1、愛媛大の宇野先生
 房水ジェット噴流説:レーザー虹彩切開術の孔からの房水ジェット噴流が内皮を蝕む
 前房内の房水の流れは、角膜内面を下方へ0.18mm/s 、虹彩前面を上方へ 0.068mm/s 程度で、レーザー虹彩切開術を行うと、その孔から初速 45mm/s 平均3.3mm/s のジェット噴流が角膜内皮に向かって噴出している。通常の200倍以上の速度です。また、その速度は、レーザー虹彩切開術の孔が小さいほど速くなるそうです。彼らの言葉によると、この荒れ狂う異常な房水動態が水疱性角膜症の発症に大きく関わっているという。
 ちょっと計算してみると、この45mm/s というスピードだが、時速0.16km程度で、これでジェットと言えるかどうか・・・

2、独協医大の妹尾先生:レーザー虹彩切開術後の前房内温度及び活性酸素の変化について
Argon laser を、Size 100μm、Power 1000mW, Time 0.05sec で、500発打つと、
前房内循環状態で     11.64±0.35℃ 上昇
前房内循環停止状態で、 21.78±0.96℃ 上昇
 ただ、レーザー虹彩切開術部位から離れると殆ど温度変化はない。
ヤグで行うと、どの部位でも温度変化なし。
だから、Argon でやると水疱性角膜症が起こる??。 ただ、かつて眼科で一般的だった温罨法で、この程度の温度上昇は起こっていて、全く問題ないことが証明されているのである。

3、筑波大の加治先生:
角膜内皮創傷治癒説―終わりのない角膜内皮創傷治癒が水疱性角膜症へとつながる

 難しい数式を操る先生ですが、要点は、

レーザー虹彩切開術の孔からの噴流が角膜内皮面へぶつかり、その噴流は角膜内面を下方へ向かう。この内面に与える圧力は、大きくても0.007mmHg。これは僅かな値だが、下方へ向かう水の流れが(??)、内皮細胞を引き剥がす力剪断応力は、0.1~1dynes/cm2。この値というのは、角膜内皮が健常であれば、問題ないが、レーザーによって 大きめのthermal burn があって、内皮がある程度以上広範囲に脱落し、周囲の内皮が遊走するという治癒機転が働くと、その接着不良な内皮は、高まった剪断応力に引き剥がされる。すると、遊走・剥離というサイクルが繰り返され、内皮減少は終わらない・・・・?
 一番説得力のありそうな意見であった。レーザー虹彩切開術の孔、ジェット噴流、高まる剪断応力、これにレーザーによる直接の内皮損傷がある程度以上加わると(あるいはその時点で存在する内皮障害の程度)、遊走・剥離のサイクルが動き出す・・・。

4、東大の山下先生:マクロファージ説

 レーザー虹彩切開術によって、焼かれた虹彩組織が前房内を飛び散り、角膜内面に付着する。
レーザー虹彩切開術によって、虹彩の血管透過性が亢進し、マクロファージが遊走
このマクロファージは、アルゴンで焼かれた虹彩組織断片を貪食。引き続き、角膜内皮を貪食する??
 少し説得力に乏しい意見のような・・・


私としては、筑波大の加治先生の説に軍配を上げたいが、ただ、適切に行われたレーザー虹彩切開術において、どれくらいの頻度で、水疱性角膜症が発症しているのだろうか。角膜専門医の立場とすれば、角膜移殖の対象疾患の中に占める、レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の比率が高いので、このようなシンポジウムとなったのだろうが、ただ、頻度的には、非常に低い訳で、この低い発生率をも説明できるような議論ではなかったようが気がする・・・。私は、今までどおり、慎重に適応を決めて、ぽつぽつとは、レーザー虹彩切開術しようと思っています。
# by takkenm3 | 2006-02-27 13:38 | 医療情報(緑内障)

角膜のお勉強3

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次は、外眼部感染症(鏡検と培養)についてのランチョンセミナーから
1、アカントアメーバと真菌:検鏡と培養の秘訣(石橋康久先生)

最初が、本学会の名物弁士?。石橋先生(北里研究所メディカルセンター)。この方の話をお聞きするのは始めてでしたが、すっかり虜になってしまいました。ひとつのことを長年にわたり追求される真摯な姿には、感動を覚えます。
この感染症の専門家は、アカントアメーバと真菌についての講演。とりわけ検鏡の重要性、特にパーカーインク・KOH 染色の優位性を示されました。皮膚科領域で、真菌を染色する最もポピュラーな染色ですが、この検鏡と引き続いての培養は、治療方針を明らかにする為に重要で、治療開始後は、検鏡のための掻爬は、治療そのものでもあり、その材料の検鏡・培養は治療効果判定の為にも必要となるそうです。実は、掻爬部位が重要で、病巣の辺縁なのか中心部なのか、深部なのか浅層なのかが重要だそうです。

 2、最近の鏡検と培養:12の秘訣(井上幸次 教授)
 ①常在菌を知っておくべき:
1、Staphylococcus epidermidis
2、Propionibacterium acnes
3、Corynebacterium
4、Staphylococcus aureus
5、Enterococcus
 ②培養で出やすい菌と出にくい菌がある。
   出やすい菌は、検出されても原因菌でないかもしれない。
出にくい菌は、検出されないので、原因と推定しにくいが、想定しておかないといけない。
   培養で検出されやすい菌  
1、Staphylococcus epidermidis
4、Staphylococcus aureus
3、Corynebacterium
培養で検出されにくい菌 
1、Streptococcus pneumoniae (肺炎球菌)
2、Haemophillus influenzae  (インフルエンザ菌)
 ③塗沫検鏡検査と培養結果が一致すれば、それが起炎菌。
 ④角膜病巣の擦過は辺縁で勝負。
 ⑤抗菌薬Virgin が狙い目。(治療してあると、それが無効であったとしても、菌は検出されにくい・・・・)
 ⑥嫌気性菌は、嫌気ポーターですばやくキャッチする。
 ⑦直接培地培養もやってみる。
 ⑧涙小管炎は、塗沫検鏡検査が命。
 ⑨性行為感染症では塗沫検鏡検査が威力を発揮。
淋菌性結膜炎が問題となる・・(原因菌:neisseria gonorrhoeae)
※ セフトリアキソンが有効
 ⑩感受性検査の盲点:PAEとAQCmax

PAE(post antibiotic effect) とは,抗菌薬を細菌に一定時間作用させると,血中・組織での抗菌薬が有効濃度以下になっても,細菌の再増殖がある期間抑えられる現象のことである.
例えば、うちの子供は、大きな声でしかると、しばらくおとなしくしていますので、この場合、PAEあり?でしょうか。しかる時、一発ゴンとやると、PAEは大きくなり、そして、私よりも、かみさんの声は、PAEに乏しく、長女は長男よりもPAEが明瞭・・・・?また、子供は成長に伴い、PAEが不明瞭になっていく・・・これで、PAEは、理解しやすいかな。

房水内最高濃度値(AQCmax) は点眼液の眼内移行動態を評価するために新たに提案された新しい指標(眼内薬動力学的パラメータ)である.
 これも、子供の教育に喩えると、大きな声でどなるだけでは、子供の心に響かない。心に響かなければ、効果がない。いくら点眼しても、眼内に移行しなければ、中の細菌は殺せない。子供に声をかけて、それがどれだけ彼らの心に響くかが問題で、私の言葉は、AQCmaxが低い(;>_<;) 。AQCmaxをあげるには、彼らの気持ちを理解する必要がある。彼らがカリスマと尊ぶ存在の言葉なら、非常にAQCmaxは、高くなる。私にとっては、高校生時代は、太宰治だったような・・・・

PAE と AQCmax について

  a. PAE を持たない薬剤
薬剤が有効濃度より低下すると微生物の増殖が起こるため,投与間隔は短くする必要がある.
※グラム陰性菌が起炎菌である場合,βラクタム剤の投与は頻回投与を選択すべき.
b. PAE を有し作用濃度に影響を受ける薬剤
ニューキノロンやアミノグリコシドは短時間に優れた殺菌効果を示し,PAE も濃度依存性を示すことが知られている.
※黄色ブドウ球菌感染症において,ニューキノロン点眼を使用する場合,
1 日6 回等間隔での点眼より,
5 分おきに3 回点眼を1 日2 クール行うほうが効果的
(名案でしょうが、誰か実践しているのかなあ・・・)
c. PAE を有し作用濃度に影響を受けない薬剤
MRSA 感染症では,バンコマイシン点眼は効果的な薬剤である.
バンコマイシンは殺菌効果,PAE ともにMIC 以上では濃度依存性ではなく,時間依存性である.
バンコマイシン点眼を使用する際は,MIC 濃度の点眼を等間隔に頻回投与するのが効果的であろう.

併用療法の場合
抗菌薬では,薬物の組み合わせによる相乗効果で抗菌作用の増強が知られている.
PAE についても同様に併用療法によってPAE が延長する薬剤の組み合わせがある.
具体的な例として,MRSA 感染症では,ホスホマイシン or バンコマイシンと,β-ラクタム剤の併用でPAE が延長する.これを生かした投与方法として,
MRSA 感染症において,
PAE 効果の強いイミペネム点眼を5 分おきの3 回点眼を1 日2 クール,
PAE は持つが濃度依存性のないバンコマイシン点眼を1 時間おきに点眼

AQCmaxについて
AQCmax:薬剤の眼房水内移行濃度を客観的に評価でき,しかもその薬剤の実際の臨床効果を予測する有用な指標になる.さらに,得られたAQCmax と個々の菌に対するMIC 値の逆数を掛けて得られた値(AQCmax×1/MIC)の大きいものほど臨床効果が期待できる


⑪感受性検査の解釈 : Rは本当にRか?
  点眼の濃度は、非常に高濃度であり、通常の感受性検査でRであっても、有効なことが多い。
※点眼は、内服や点滴で実現する濃度をはるかに上回る高濃度を達成できる。我々眼科医は、このことを念頭において、感受性検査を解釈しつつ、治療を行う必要がある。
⑫外注する時の注意事項
  薬剤をいくつか指定して、感受性検査を依頼しても、指定した薬剤を使わずに、その薬剤グループの他の薬剤で代用している会社があるらしい。
  本当の話のようで、恐ろしいことである。結構有名な会社でも、やっているとか・・・
# by takkenm3 | 2006-02-27 13:34 | 医療情報(角膜)